清水女流王将vs.あから2010

将棋の内容について

振り駒で、あからは後手に。▲26歩は清水なら普通の出だし。
△34歩、相掛かりにはしない。▲76歩、これも普通。
そして△33角!4手目3三角戦法とは驚いた。意外だった。
序盤はオーソドックスに指し、右四間をやらせて受け潰すものとばかり思っていた。
△82玉は2筋を放置するリスクを負って態度を保留する手だが、
この辺りはコンピュータも普通に▲24歩は大丈夫と読んで指しただけだろう。
▲77玉はこの戦型では普通の手だが、清水にしては意外な手。コンピュータ対策の穴熊か。
清水にとって経験値の少ない形だろうから、そういう意味の不安はある。
二度目の△44角。この手は現地の藤井・佐藤が悪い手だと言っていたらしい。
ただ、相振りだったら何手損しようが▲66角と先着するのが急所だったりするし、
このラインへ角を打つ手が悪いという感覚は、ボナンザに毒された自分にはわからない。
この△44角の評価はだんだん上がっていく。コンピュータらしい手だ。
(この角は、結果的にだが、最後まで盤を支配し続けた)
▲77金と上ずった先手の陣形はいかにも薄いが、このまま穴熊に組めればポイントを稼げる。
しかし、△64銀と△44角が入って、しかも▲46歩〜▲45歩と角を追うしかないのでは、
もう本格的な戦いが起こることは避けられず、コンピュータ側が楽になったと思った。
▲45歩の局面は、ボナンザなら一目△77角成と切るところ。

0.10 4477UM nps=22310.8K 201.2s Bonanza_cluster
1.90 4477UM nps= 1389.0K 201.8s Bonanza 146

合議サーバのログ

ハイレベルな戦いでも、「いつものボナ子だな」と思うと安心する。
実戦は、先に桂損する△45同桂。当然の▲同桂に△56銀。
普通に△76銀じゃないのかと思ったが、△67銀成と△45銀を見せている。
▲33角の打ち込みなどもあるが、玉が角のラインに入っているためやりづらい。
普通そうに見える局面が、実は人間側だけかける技がなくなってたりするのが怖い。
▲66金は、先手玉が見えなくなる手。
更に、▲45桂の活用や▲31角から馬を引き付ける手も残っていて、後手を持ちたくない。
だが、家のボナンザでもこの▲66金の局面は後手持ち。
実戦は△45銀と桂を取り、平然と▲31角を打たせた!
この局面、手持ちの桂馬2枚を単に打つだけで角のラインが生かせるようだ。
そこで金を入手して△52金!
いつの間にか本美濃が復活。振り飛車の左桂が捌けた上に金桂交換の駒得。
飛車をいじめられそうに見えるが、△44角の利きがあるので逃げる必要がない。
先手は香車を拾うこともなかなかできないし、せっかくの馬が飛車と相討ちでは
何も主張するところがなくなってしまう。
しかし実際に相討ちとなり、清水は嫌らしく▲86桂を置く。
これは、持ち駒によっては▲74桂打から即詰みとなる、後手にとって実に嫌な手。
また、ここでは▲24飛と走る手も厳しく、後手としては何を受けるか迷うところ。
でもコンピュータは気にせず△69金!?下段に金打つとか何考えてんの。
この手は、次に△46角が詰めろとなるため、飛車が走れない。
▲78金と受けるが、玉のコビンが開いたので△57角!
△46角と比べたメリットはよくわからないが、先手の飛車が不自由そうだとは思った。
この手を見て、もう完全にコンピュータのペースだと思った。
勝ち筋のある展開になってくると、本当にえげつない、鋭い、切り込む。
評価値を上げるスピードなら誰にも負けないという感じだ。
△56銀と、さっき桂馬を取った銀が戻ってくる。味がいい。
△55角で、駒を渡す攻めができるようになる。おい先手、何かやれよ。
こんな手が入るんだから、もう形勢は圧倒的に後手だろう。
先手も▲66角と粘りを見せるものの、コンピュータは焦らない。
△85銀はもはや受けの手ではなく、△86銀と桂馬をもぎる手に対して先手は取り返せない!
その桂馬を控えて△95桂と打った(詰めろ)ところで先手の清水が投了した。

「あから」とは何者か

単なる多数決合議ということだが、それでもわからないことはたくさんある。
清水市代女流王将vs.あから2010の棋譜と合議サーバのログを見て考えてみる。
各ソフトの読み筋や評価値も見たいところ(2010/10/16、同ページで公開された)。

定跡の選択はランダム?絞る?

合議サーバのログを見ると、最初はYSS(単なる代表?)が3三角戦法へ誘導し、
その誘導以外は、定跡部分についても多数決合議で指し手を決めているように見える。
確かに、ジックリした相居飛車は構想力の差がもろに出るので、
力戦調の振り飛車という選択は、「勝ちに行った」ともとれる。

戦形は予想外の4手目△3三角戦法。全く予想を裏切られました。聞くところによると、コンピューター将棋側の作戦の一つだったとか。公開の場では隠していたそうです。そこまで作戦を練っていたとは。

結果: 遠山雄亮のファニースペース
思考時間は誰が決める?

この辺は、現状で最高のすごいノウハウが詰まってそうで知りたいんだけど、
無難に選んだ有力そうな手法を使って合議サーバから指定する形かなあ。
CSAサーバから返ってきた実際の消費時間は、チェスクロックのものではないと思うが、
あからの指し手に従って人間が盤上の駒を動かす時間はオマケしてくれるんだろうか。

予測読みの方法

"pid"という、読む対象の局面に対する通し番号みたいなものを使っているようだ。
予測読みで読んだ局面が実際には現れないこともあるので、
この番号は106まである(実際の手数は86)。
合議で相手の手を予想して、決めた予想手に対してまた合議を始めるようだ。
この方法だと、相手の手を予想している間に相手が指せば予測読みはできないし、
相手に有力な手が複数ある場合、予想手が外れるリスクがあると思う。
合議だと、同じ手を最善手としても、読み筋は異なる可能性があるから、
普通の予測読みの手法は流用できないのだろう。

169台のPCをどう生かす?

東京大学クラスターマシン169台を使える今回の対局。
しかし、PC間の情報のやり取りには時間がかかるため、169台を生かすのは難しい。
しかも、この1台1台の性能は、最新のPCと比べるとはっきり劣る。
たとえ4ソフトによる合議だとしても、少なくとも43台以上を使うソフトがあるわけで、
最新の6コアマシンが4台用意できている中で、
少し古い多数のPCを使ってそれよりも確実に強くできる技術があるとは思えなかった。
4ソフト全てをクラスタマシン用に対応させる手間も膨大だろう。
合議サーバのログを見ると、BonanzaBonanza_clusterのように、
各ソフトに通常版とクラスター版があるようだった。
また、多数決合議に際して各ソフトに重み付けがしてあり、
それを足し合わせた和が最も大きい手を選択しているらしい。
この重み、リーダーの激指が2.9、他は1.9となっているのだが、
クラスター版の重みは0.1しかない!
ただし、GPS将棋に関してはどちらも1.0となっている。
コンピュータ将棋選手権でクラスターマシンを使った実績があるからだろう。
各ソフト、2.0(激指は3.0)の重みを通常版とクラスター版に分配している。
純粋に勝負という意味では、まだクラスターマシンを生かせる段階にないのだろう。
ただし、今回の対局で得たものがフィードバックされればどうなるか。

多数決合議

合議には、6%程度勝率が上がるという結果が出ているらしい。
好手が増えると言われる楽観合議、悪手が減ると言われる多数決合議。
今回、勝つ確率を少しでも上げるために採用されたのが多数決合議ということだろう。
相手が羽生でも多数決合議を採用しただろうか。
実績の少ないクラスターマシンを使うにあたっても、合議は相性がよかったと思う。
あと、今回の対局に携わる開発者が増えるというメリットは大きかっただろう。
今の瞬間たまたま激指が最強だからといって、激指を当事者たちが選べるか。
1ソフトに対し、あらゆる局面でバグを発現させない責任を負わせるのも酷だ。
研究を進める意味でも人数は多いほうがいいし、楽しいと思う。

対局を見ていて思ったこと

角交換振り飛車にありがちな、千日手含みの展開が心配だったが、
穴熊を阻止する形でコンピュータ側から手が作れそうになったので拍子抜けした。
また、最も心配だったのは、互角に近い終盤で手数計算の争いになること。
桂馬ゼットなどの概念を使うと人間はかなり深く読める。女流トップならなおさらだ。
しかしこれも、大差の終盤だったので、コンピュータの強さばかりが見える展開に。
男性プロの棋戦だと、持ち時間は1分単位で切れ負けということが多いけど、
それなら毎手55秒考えても持ち時間を全く使わなくて済む。
チェスクロックだと本当のノータイムで指さないと持ち時間を終盤に温存できないので、
同じ3時間でも、人間にはやや不利な持ち時間だったと思う。
家でインターネットを見ているだけだったので、人間が負けても特に何も思わなかった。
現地で観戦していたら、また違うものを感じたのかなとも思う。
(追記)動画やコメント付き棋譜が公開されている。
人類VSコンピュータ! 世紀の将棋対局~清水市代女流王将vs.あから2010~ - 2010/10/11 12:40開始 - ニコニコ生放送
http://komazakura.shogi.or.jp/vscomshogi/kifu/