NHK杯、中田功・阿久津

対局前のインタビューでは、両者ともノーマル三間を意識したコメントだった。阿久津は相振りも匂わせており、三間飛車を正面から受ける感じではなさそう。
中田の先手で対局が始まり、▲76歩△34歩▲66歩△14歩(!)。ここから先手が端を受けずに三間飛車を目指すと、△15歩と突き越されて美濃にしづらくなる。なので▲16歩と受けたが、そこで△32飛。相振り飛車になるなら端の交換は後手の得だ。だから相振りにはせず、▲48銀から先手は居飛車を選択。これなら端の交換がむしろ先手の得になっている。
相手に得意戦法が一つあっても、それは常に避けることができる。今回のケースなら、単に相振り飛車を目指せばいい。ところが、ここで阿久津はもう少し得しようとした。相手が振り飛車党なので△14歩が入る。一方の中田は、居飛車の税金と言われる▲16歩が△14歩との交換で入ったので、居飛車を選んでも不満がない。
こうして、中田ではなく阿久津が三間飛車をすることになった。「逆じゃん!」って思うけど、こういうことがあるから将棋は面白い。とはいえ、今回ばかりは中田功の三間飛車を見たかったという気持ちが強い。よく将棋ファンが言う「真っ向勝負してほしかった」というのは、こういう感情なんだね。
振り穴と高美濃の戦いになった。飛車交換になってから、先手がずいぶん手数をかけている印象だったが、意外に先手への攻めがない。いいなあ。自分は左美濃が苦手なのでこういうの憧れる。
終盤、先手から穴熊への攻めがヒットしたところ、阿久津の反撃がすごかった。これは、鋭い攻めって言うのかな。桂と角を捨てて、あっという間に先手の囲いを崩してしまった。異世界へ引きずり込まれたような感じ。ここから、肉片の飛び散る戦いを阿久津が制した。