AlphaGoの衝撃

事前の予想はAlphaGoの2勝3敗。予想は事前に書いておくものだが、囲碁のことは全然わからないのであまり書く気が起きなかった。
AlphaGoがFan Huiに5戦全勝していること、異質なコンピュータの棋譜をプロ棋士は過小評価しているだろうと思うことから、当時のAlphaGoがFan Huiより少なくともR200くらいは上だと思った。Lee SedolがFan HuiよりR600上として、R400上げればいい。
プロに勝つところまで行ったのに、そこから更にR400強くする、それも短期間でというのは、普通は考えられない。しかし、計算資源が潤沢なら期間は大幅に短縮できるし、何より開発者の能力が、俺では想像も全くできないレベルだ。だからそれはあり得ると思った。
自分はコンピュータに強くなってほしいので、逆に「実はFan Huiの調子が悪かったのではないか」「その後ほとんど強くなっていないのではないか」「やはりLee Sedolは別格なのではないか」といった不安を持っていた。感覚的にはコンピュータが勝てるビジョンが見えないのだけど、しかし予想はレーティングに従って淡々とやったほうが当たるわけで、AlphaGoの2勝3敗と予想した。3勝ではなく2勝であるところに、不安というか保険をかけたような跡が見て取れる。
3/9の第1局。ニコ生では、序盤からAlphaGoに疑問手があったという解説。相手の人間がとてつもなく強いことは知っているので、この対局でコンピュータの妙手が見られる可能性が減ったと思い、もやもやしていた。
それが、「最初の見た目よりは悪手でない」「自信なくなった」とだんだん解説のトーンが変化していった。あから2010のときの解説を思い出した。あのときも△44角が悪い手だという解説だったが、時間が経つにつれてこの△44角の評価は上がっていった。
難しい勝負になったことが嬉しかった。そして、だんだん空気が重くなってくる。AlphaGoが勝ちが見えてきた。コンピュータ将棋が初めてプロに勝ったときの空気を経験している山本一成さんがニコ生にいたのは心強かった。
終局。「複雑な攻め合いがなかったように見えるが、難しい変化を含んでいる」「それを内包しつつもきれいに打っている」という解説で、どうも本格的に強いらしい。
結果は、わかってしまえば特に不思議なものではない。ただ、自分の気持ちという意味でも、この結果によって壁を越えたのだ。コンピュータ将棋がプロ棋士に勝つのを見てきたはずなのに、「勝てないんじゃないか」という思いを拭いきれなかった。その先を想像することがなかった。
翌日3/10の第2局。昨日と違って、AlphaGoが強いという前提で解説が行われる。とはいえ、シチョウ含みの展開で悪そうな手が出たと言われたときは、さすがに悪そうだと思った(しかしこれも最終的には悪くなかった)。
大橋六段のお絵かき解説が面白かった。盤面を出せないという制約によるものだが、これがわかりやすい。自分のような、一応は打てるけど初級者レベルという人にピッタリの解説法じゃないかと思った。
途中のニコ生アンケで、どちらを応援しているかというのがあって、AlphaGoが34.7%だった。出演者は意外そうにしていたが、言われてみればTwitterではAlphaGoを応援する内容をあまり見かけないかもしれない。自分はAlphaGoを応援しながら(勝ってほしいと思いながら)観戦していたけど、まあこの空気の中では露骨にそうはツイートしづらい面もある。プロ、それも今回のようなトッププロが相手なら、その凄まじい強さは明らかなので、自分は「コンピュータがやれる」という展開を見たくなる。
囲碁って難しい」のような感想が何回か(囲碁の難しさを最も知るはずの)プロから聞かれた。またしてもAlphaGoの勝ち。弱点らしいものはまだ見えない(それだけに、まだコウが出てきていないのが気になる)。
三浦GPSを思わせるような状況になった(人間は悪手がないのに負けた)。この2局で、AlphaGoが強いことはわかった。まだ2局なので、人間のトップを超えるほど強いのかはわからない(雰囲気的には強そうだけどさすがに局数が少ない)。
コンピュータ囲碁がここまで来たのは大事件だ。最近でこそ10年後にはプロレベルになると言う人が多くなっていたが、モンテカルロが伸び悩んでいたときは「本当にその時が来るの?」という思いもあった。それがもう来ちゃってた。
囲碁やコンピュータ関係の場所以外では、電王戦と比べてもあまり話題になっていなさそうなのが怖い。人類史上一回しかないこのときをスルーしていいのかよ。
何にせよまだ2局。あと3局、何が起こるか楽しみだ。