引き離すのに必要なエネルギーと、その逆

天ぷらを揚げたときなど、油から上げて振るよりも、
天ぷらを揚げ油に少し触れさせて待った方がよく油が切れると言われる。
確かに、油を衣から引き離すためにはエネルギーが要るから、振っても落ちないのはわかる。
でもそれなら何で、油に触れさせることで状況が変わるのか、疑問に思った。
もちろん、衣から引き離される代わりに下の揚げ油と結合しているからなのだが、
振って油を落とすのに大きなエネルギーが必要であることとのギャップが埋まらなかった。

そんな疑問を感じてしまった自分の不自然さは、「振って落とした一滴の空中にある油は、位置エネルギーが高く、下の揚げ油と結合するときにエネルギーを放出する」ことに気づいていなかったという点にあった。
余談だが、細かい構造の金属などを密着させることで触媒のように働かせ、
素早く油を下に落とすというのは、原理的には可能であるように思う。

さて、今こんなことを書いたのは、以前にも似たような経験があったから。
どうも自分には「エネルギーを放出する」の思考回路が入っていないらしい。
結露するときに熱を放出するという意味がわからなかった。

気化熱というのはわかりやすい。
汗をかくと、水が蒸発するときに気化熱を奪っていくので体温が下がる。
具体的には、汗の中でも動きの速い水分子が蒸発しやすいので、残った水分子は遅いやつばかりになり、体の表面を冷たくする。
ついでに、出て行った速い水分子も、液体の水同士の結合を振り切って出て行くので、そこで運動エネルギーを位置エネルギーに変えてしまい、やはり冷たくなる。

これに対し、逆の凝縮熱というのはイメージがしにくかった。
「結露するときに熱を放出する」などという表現は、非常にわかりにくい。
汗の気化熱と違って体感する機会がないから、
窓に結露した冷たそうな水が熱を放出するなんてイメージは持てなかった。

結露

空気中の気体の水分子が結露するというのは、窓や窓に付いた水滴に入って出てこないこと。
窓や水滴の近くに行けば、水分子は地球に落ちる隕石のようにぐんぐん加速する。
そして近くに留まって出てこないなら、位置エネルギーを消費して加速した分の運動エネルギーは保たれ、結露先の水滴の温度を上げる。
また、気体の水分子が再び飛び出してこず、窓や水滴に捕えられてしまったというのは、
そもそもその水分子の動きが遅かったということなので、遅いやつがいなくなって空気中の水分子の平均速度は上がることになり、つまり気温が上がる。

まあ、気化熱の話を逆にしただけなので、難しくはない。
それに、ミクロに捉えれば「気化熱を奪う」という表現だっておかしい。
この、結びつくときに加速するという当然の感覚を、油切りや結露といったマクロな話では発揮できなかった。