コンピュータ将棋選手権、一次予選、稲庭将棋

一番気になっていたのが稲庭将棋。
http://www.computer-shogi.org/wcsc20/team.htmlから見られるアピール文書にもあるように、
相手の時間切れによって勝とうというプログラム。
実際に見てみると、事態は思っていたより深刻そうだ。
まず、今回の成績は4勝0敗3引き分け。
飛車先の歩交換を繰り返して手損するというのが昔のコンピュータ将棋のイメージだが、
そういう展開になると稲庭将棋は勝てない。千日手になってしまうから。
これは稲庭将棋に改善の余地があるのかどうかという話で、まだいい。
しかし、▲ツツカナ△稲庭将棋の対局を見ていて、恐ろしくなった。
ツツカナはかなりよさげなソフトで、火力は足りないかもしれないが、筋が強いと思った。
ここから、ツツカナの考えについては完全なる私の予想(妄想)。
21手目▲55銀は、相手の大駒が働いていないのを見て、伸展性を奪いに行った。
しかしそれは稲庭将棋の望むところ。
ツツカナが端を突かないのは、相手に陣形を進展させる時間を与えないためだろうか。
相手に陣形を整える余地があるため、それを先延ばしにする水平線効果かもしれない。
ツツカナは自分が大優勢だと思っているので、千日手を避ける。
例えば、評価値がマイナスなら千日手を狙い、プラスなら千日手を避ける実装が考えられる。
これも稲庭将棋にとってはありがたい。
最近のソフトは非常に多くの要素から形勢判断ができるため、
いくらでも陣形を「点数の高い状態に」発展させ続けることができる。
しかしこれは、ともすれば「時間が切れる前に相手玉を詰ます」という
本来の目的から離れた挙動を生むことにもなってしまう。
さて、48手目△34同歩の局面。
すぐには無理だろうが、▲97香などの準備をした上で、先手が角を切る手もあると思う。
堅さを生かして、駒損でも金や歩を手に入れて一気に潰してしまおうという構想だ。
しかし、△22金の形は、もうありえないくらいの悪形だ。
切られて△22同角と取り返す手も、たまらなく味がいい。
だから、まともな評価関数を持つコンピュータなら角を切る手は絶対に考えない。
無理に攻めなくても現在の高い評価値を維持、あるいは微増させられるわけで、
評価値の低い局面を選ぶ理由はない。
コンピュータにあらゆる事態を想定させるのは、たとえ可能でも面倒だし性能を低下させる。
だから多くの場合に弱点を放置する選択が正しいということにもなる。
だが、こういう極端な相手のときにはやはりこういう結果になる。
一般に、コンピュータは読み切れる範囲なら最短距離の勝ち筋が見えるが、
相手玉の詰みがその範囲を超えた場所にあり、しかも安全勝ちの順がある場合、
(よほど評価関数が良質でない限り)最短の斬り合いは選べない。
筋っぽい手を指してくる最近のソフトは、それがいい形だということは知っていても、
なぜその形がいいかを理解しているわけではない。
知識の膨大さと量の読みで大抵カバーできているが、依然として構想力がゼロなのだ。
これは深刻だ。