ブランコの漕ぎ方

幼稚園の頃、運動が得意なほうじゃなかったので、立ち漕ぎはしなかった。
ブランコに座って地面を蹴っているだけでもそれなりに楽しいが、
できればガッチリ漕いで、地面を蹴ることに依存せず楽しみたい。
しかし、なかなか振れ幅を大きくすることができなかった。

教えられたやり方は、
ブランコが後ろに行ったら足を曲げ、ブランコが前に来たらその足を前に蹴り出す。

愚直にその動作を続ければ、確かに初期状態よりも振れ幅が少し大きくなった。
だが、一生懸命やってもその程度。
ビュンビュン立ち漕ぎしてる人もいるのに、これじゃやってられないと思った。

小学生になっても、立ち漕ぎはできなかった。
体を前後に動かしても、ブランコが前後に動くわけがない。
角運動量保存則のようなことを体で感じて、ブランコは漕げないと思った。

中学生になり、ブランコについて真剣に考えてみた。
ブランコに乗った自分にかかる外力がないのに、「漕ぐ」なんてことが可能なのか。
よく考えると、ブランコの鎖の張力以外に、自分は重力も受けていることに気づいた。
これによって、14年のブランコ人生で初めて希望が見えた。
重力の向きは(ブランコが少しでも振れている場合)ブランコの鎖の向きとは違う。
力のモーメントが0じゃないのだ。
まあ、ブランコを後ろに引いて手を離せば動き出すんだから、
モーメントが0はありえなかったんだけど、それに初めて気づいた。
何か漕ぐ方法があってもおかしくないと思えるようになった。

最初に示した図の緑色の矢印が、自分の受けている力。
上方に引っぱる鎖の張力と、真下に引っぱる重力。
そしてこれらの合力が青い矢印。
ただし、ブランコが動いている場合には、遠心力で鎖の張力が少し増す。

ここで、振り子の長さを変えることを思いついた。
論理的に導き出したわけではないが、とにかく思いついた。
紐が短い振り子なら、同じ速さでも振れる角度は大きくなる。
このことを最も効果的に利用するには、
加速中はできるだけ重心を低くし、減速中は重心を逆に高くする。
つまり、最下点で一気に立ち上がり、最高点で止まった瞬間にしゃがみ込めばいい。
この操作は1周期に2回やる機会があるが、現実には1周期に1回で十分だろう。

ここまで理論武装すれば、あとは実践あるのみ。
中学校の帰りに小学校へ寄って試した。
ブランコの場所まで行った。少し興奮していた。
ブランコを後ろに引いて、しゃがんで乗り込む。
足を地面から離して加速が始まり、ブランコが一番低い場所に到達した瞬間、
一気に立ち上がる。
すると「グウィン」という感覚と共に、ブランコは信じられないほど高く振れた。
やった!
中学生の体重を支えるため、腕は疲れたが、嬉しかった。

ブランコが前に来たらその足を前に蹴り出す。
あの座り漕ぎの方法の本質は、足を前に動かすことではなく、
足を蹴り出すことで足自体の重心を上げることにあったのだ。
ああ……こんなこと誰も教えてくれなかったし、
誰に教えられることがなくても、みんな自分で体得していた。
でも、自分で考えて立ち漕ぎができるようになったことで、十分元は取れたと思う。