竜王戦第5局

2012年11月28日〜11月29日 七番勝負 第5局 渡辺明竜王 対 丸山忠久九段|第25期竜王戦
素晴らしい内容の将棋だった。その余韻の中、竜王防衛、9連覇という実感がない。
33手目▲88玉で第3局と同一局面。第3局では△65歩から普通の形に戻そうとした渡辺だが、この第5局では、おそらく研究してきたであろう、△74歩。「△7四歩と突いとったらどうなったんかなぁ」と井上九段も言っていた
丸山の応手は▲68金右。「堅いけど、こんな序盤で決めすぎでは」という感じ。対する△73桂に丸山は長考。ここから数手、長考が続く。
封じ手をはさみ、△42金右。攻めると思われていたところで、ジッと金を寄せる!これは、GPS将棋が言っていた手。コンピュータと手が一致したが、こんな手を指す人間の気持ちはどんなものかと気になっていた。感想戦コメントによると、消去法で選んだという。
竜王ペースになっていると思われたが、実際はそうでもなかったらしい。丸山は決め手を与えない。決め手を与えないことが可能であるような局面だったのか!これが将棋だ。後手優勢に見える局面が、よくわからないドロドロを抱えている。
正直△87桂の場面では、これで決まったと思っていた。先手陣が金銀4枚ですぐには潰れないように見えたけど、まあニコ生もGPS将棋も後手がいいと言ってるし。しかしこれが全然難しいわけだよ。
一方で、トッププロの将棋の繊細さも感じた。後手としては入玉されるのが怖いところなのに、下から△88銀と王手。繊細と言うとちょっと違うかな。ドロドロした中を短い時間で泳ぐときでも、トッププロの将棋は極めて高いレベルの正確性が要求される。ボンヤリした大局観では渡れない。大山康晴クラスのものがあれば別かもしれないが。
第1局、第2局は別としても、この竜王戦は、角換わりのスペシャリスト、丸山の力が発揮されていたと思う。丸山に視点を置くと、これだけの力を見せているのになぜ結果が負けなのかと思う。渡辺の側に立つと、これだけの決断を正確に何回も何回も続けてようやく勝てるのか、相手はどんだけ強いんだという感じ。
いい最終回だった。いい竜王戦だった。来期にも期待しよう。