第2回将棋電王戦第1局

対局前に思っていたこと

ここ数日、電王戦に関する記事をいくつか読んで、プロ棋士の強さを感じていた。コンピュータに対し、アマチュア高段者が100回に1回しか勝てないような条件で、プロはそこそこ勝てているらしい。コンピュータの弱点が、プロレベルの序盤力・構想力を前にして表面化するのではないか。その場合、コンピュータ将棋のよさが発揮されずに終わるのではないか。
電王戦は5局行われるけど、対局者の視点を考えれば、一発勝負が5回ということだよなあ。そんなことも思っていた。

先手が優勢になって

端を突き越させたのと、△65桂と仕掛けたのは、コンピュータの弱点。駒がぶつかればコンピュータも力は出せると思っていたが、攻めを切らされてしまった。激しい将棋に見えて、意外と後手の手が狭い展開だったのかもしれない。
見た目つまらない将棋だ。もちろん、この攻めを切らすというのは、とてつもなく高い棋力が必要だ(事前の研究があったとしても)。しかし自分程度の棋力ではそれが実感としてわからない。結果、どちらもあまり強くないように見えてしまう。
強いコンピュータと強いプロ棋士が戦い、両者の性格が違うとなれば、当然「両者の評価が分かれる局面」に誘導されるわけで、その局面は、今回は、プロ棋士の側が優勢なものだった。そこそこ強い人間なら一目で先手よしと思える局面を、コンピュータは時間をかけても正しく評価できない。

阿部四段が勝った

対局中、自分がなぜコンピュータのほうを応援するのか考えていた。プロ棋士がとてつもなく強いのはわかりきっている。問題はコンピュータの棋力だ。人間の手によって作られた将棋ソフトと、そのソフトを動かすハードウェア、それがもうこんなに(プロ棋士を倒すほどに)強くなっているんだ!と思いたかったのかもしれない。
「まだ未来ではなかったのかなあ」というのが終局したときの感想。
一発勝負の勝敗からは、大したことはわからない。プロ棋士にコンピュータが1回勝つだけなら、来週にでも起こることだし、習甦がちょっと違う定跡を選んでいたら逆に圧勝していたかもしれない。将棋で弱いほうが勝つのは極めて普通のことで、プロの将棋を観ている将棋ファンには常識だと思うが、相手がコンピュータだとそれを忘れてしまう。
勝負とは残酷なものだと思った。全てをつぎ込んだ対局も、勝ちか負けか、どちらか片方の結果にしかならない。
自分が応援していた習甦は負けたけど、相手のプロ棋士に(勝負にかかわるような)ミスがなかったのは本当によかった。阿部四段が輝いていた。習甦開発者の竹内さんもかっこよかった。

今回の将棋を振り返る

阿部四段が先手で、公式戦でも指していた先手番の一手損角換わり。通常の角換わり後手と比べると飛車先を自分だけ突いていないのが得、通常の後手番一手損角換わりと比べると一手得。
早いタイミングの▲96歩。これを習甦が手抜く。すかさず▲95歩と突き越す。駒組みが続き、習甦は早めに玉を入城させ△65桂と仕掛けた。こういう仕掛けは無理とされているが、うるさい攻めが続く。
△65桂に▲66銀なら穏やかだが、阿部は▲68銀と踏み込んだ。後手は▲66歩で桂を取られると負けなので、当然猛攻に出る。必然的に激しくなる。阿部四段も自宅の習甦での研究があるのだろう。局面の割には速いペースで指し手が続く。
後手玉は堅い。先手はこの攻めを切らす必要がある。そんな中、習甦の△67金は感触がいまいちな手で、後手がやり損なったような空気が漂ってきた。▲88金と逃げておいて、これは序盤に突き越しておいた端が生きる展開。先手玉は上に広く、上に厚い。おまけに飛車の横利きで横からの攻めも行かない。
とにかく57の成桂が酷い。斜め後ろに引けない駒なので、働くまでに絶望的な時間がかかる。67に打った金が重く相手玉に近づけないし、逆サイドで37の桂を狙ってもその瞬間▲25桂の反撃(これは味がいい)が来る。
後手に攻めの手段を与えない阿部四段の指し回しが素晴らしかった。先手玉も、例えば△96香などと打たれたら狭くなるが、駒を渡さずに攻めればそういうことは起こらない。
△66角の銀取りには、攻防の▲51角があまりにもピッタリ。ここからは、コンピュータの悪いところしか出ないような流れ。阿部四段がしっかり勝ち切った。