将棋電王戦FINAL、第4局

ponanzaの初手は▲78金。実際にコンピュータ同士の対局で、▲78金から相手に飛車を振られても十分に戦えていた、つまり相居飛車にされるのと比べて悪くならなそうだった。だから、これは「ない手」とか「挑発」とかではなく、少なくともコンピュータにとっては「ある手」であり、王道の手とさえ思った。佐藤康光居飛車党に対して△32金と挑発したことがあるが、相居飛車になったときに小さいながらちゃんと主張があった(主張が皆無なら、挑発に乗って飛車を振る必要性はなくなる)。ponanzaが初手▲78金のメリットを見出していたのか、単に振り飛車が眼中になかっただけなのかはわからないが。
戦型は横歩取りへ。村山七段は事前研究のある相横歩を目指す。ponanzaも横歩取りなら先手十分と思っているようなので、高確率で相横歩へ進むのだろう。ここでponanzaは▲77歩。プロの実戦例はほとんどないが、ponanzaが自分で生成した定跡だ。ここから△74飛に飛車交換せず▲36飛で、村山七段の事前研究を外れた。▲77歩と低く構えて飛車交換に強いくらいしかメリットがなさそうなのに、その交換を拒否する。プロ棋士はみな驚いていた。
この形では、▲86飛△82歩▲83歩と攻める手がある。ponanzaもその筋を狙っているが、これまた驚いたことに、ponanzaは▲56飛△42銀の交換を入れてから▲86飛と回った。ゼロ手で△42銀を指させたことになるが、この△42銀は後手の壁形を解消して大きな手だ。将棋を知っている人間なら、まず「△42銀は後手の得に決まっている」と思うところだ。しかし、▲86飛△82歩▲83歩と先手から攻めたときに、△42銀が先手の得になる変化もあり、村山七段は△82歩を断念した。実戦は△84歩から馬を作らせ、大幅な手得を主張したが、△82歩とどちらが優ったかは難しそうだ。
ここからはponanzaの強さが際立つ展開。△24飛には▲28歩と早すぎるタイミングで低く受ける。のちに後手は△26歩とそれでも伸ばしたので、好手だったということになる。また、壁形で銀や桂も使えないと言われていた▲77歩と打った形も、▲76歩から銀桂を繰り出し好形になった。陣形差で後手が有利とも言われていたが、先手にばかり価値の高い手が続き後手の主張は消えていた。
戦端を開いたのはponanzaの▲46歩。玉のコビンを自ら開ける、非常に指しにくい手。しかし、馬の守備力が絶大で成立していた。もし逆方向から▲75歩などと攻めれば、右辺が壁なので反動が厳しくなる。コンピュータらしい柔軟かつ機敏な仕掛けだ。村山七段も勝負手を連発して食い下がるが、本局のponanzaは素晴らしい安定感でそのまま勝ち切った。ponanzaの会心譜と言えると思う。