2012年9月5日 五番勝負 第2局 渡辺明王座 対 羽生善治三冠|第60期王座戦
終局後の余韻。
後手番の羽生は、角交換四間。振り飛車という選択はあると思っていたが、まさかこの戦法を採用するとは。考えてみれば、ノーマル振り飛車はやらないだろうし、この時期にゴキゲン中飛車もなさそう。後手32飛とかはさすがにない。すると、プチ流行している角交換型の振り飛車ということになる。
王位戦で、羽生はこの戦法に相当苦しめられ、インスピレーションも得たと思う。それでやってみたのだろう。羽生は早い段階で△44歩とした。△22飛と回りにくくなり、△44銀も消している。普通は、それらを含みとするために保留したい手だ。
24手目、△74歩。▲75歩の位取りを避けている。これはよくわからない。この戦型で位取りは有力とされているので、△74歩でそれを阻止できるならなぜ過去に△74歩が頻出していないのか。
お互い矢倉と高美濃に組み、ここで居飛車は▲55歩と位を取る。争点がない将棋なので、位を取っておく。更に駒組みが進み、後手は銀冠に、その瞬間先手も▲98香。ここから、羽生は手待ち。
千日手が絡む将棋は面白い。実際に千日手になることよりも、千日手をちらつかせたり含みに持ったりして両者が戦うのが面白い。本局では、居飛車がどうやって手を作るかという戦い。渡辺は、銀を攻めに使わず、引きつけて4枚穴熊にした。そして▲48飛。▲45歩を見せて、これに△92玉とはしづらい。実戦は△12香と待ったが、それに対して▲28飛。ここで△13香みたいなのは▲48飛と戻されても損だし、といって仕掛けもないので△92玉と再び待つ。ここで渡辺は仕掛けた。
52手目と56手目の局面を比べると、△92玉と△12香を指させている。これで▲24歩の仕掛けが成立するようになったということだろう。1筋で1歩を調達して▲34歩と打つ、筋としてはよくある攻め。これまた羽生は、▲35歩に△52角とヘンな受けをする。
この辺りは、先手がいいと言われていた。先手は4枚で囲って戦いも始まっている。対して後手は、左側(後手玉と反対側)飛角銀が残ってしまっている。羽生は端攻めに出た。△96歩が手筋かー。△95香と走った手には、▲96香とさっぱりさせてしまう!△91香の銀取りには、▲96歩と下から支えて歩を渡さない!これは渡辺ペースかと思っていた。
△84桂。こう打たれてみると、△43角も働いている。▲79玉の受け。先手は▲51角を見せて戦うが、0.3手くらい遅れている印象だった。
この辺り、時間の流れがゆっくりになっていた。後手はゆっくりと駒を活用していく。先手は攻めているが、どうも捕まらない。速度的には大差なのでは、とも思ったが、渡辺は食らい付く。この局面に、そんな技を繰り出す余地があったのか、と思わせるようなのがガンガン飛んでくる。漫画の戦闘シーンを見ているような感動があった。
しかし速度差はあまりにも大きかった。最後▲46桂が、何て言ったらいいのかな、勝負手とは言えないような、鬼手、かなあ。執念を感じる、いや執念というか好調を感じさせる?負けの局面での、読みの入った手。▲62成香から精算して王手で(先手玉は詰めろ)角を取り、▲71角と捨てて▲21飛成。ここで△31歩▲63桂△62玉などとすると、▲42飛で後手玉は頓死。そこで△31金と高い合駒を使えば、同じ変化で▲42飛がない。渡辺は△31金に▲32竜と形作りをして△87歩成に投了した。
感想戦コメントが来ているね。困っている羽生は珍しい。