第3回将棋電王戦、第4局

開始前に、どちらが勝つかというアンケートがあった。最もコンピュータ側の勝率が高いと思われていたカードだが、森下九段が63.4%。自分も森下九段をクリックした。
僕は今回初めて人間側を応援していた。ツツカナへの絶大な信頼も理由だが、元々森下九段のファンだったし、(電王戦に出ることになって)公式戦でも好調だと聞いて嬉しかったのが大きい。
ただ、応援するとは言っても、具体的に勝つビジョンは見えなかった。ツツカナにトラブルがあるような展開は勝敗以前に一番嫌だし、と言って後手番でそれほど有力な戦い方があるとも思えない。序盤はともかく、森下先生の終盤力では力で押し勝てないだろうと思っていた(NHK杯の解説で聞き手に詰みを指摘されるような場面があった気が)。
戦型は相矢倉となった。ツツカナは、プロ棋士とはやや違う手順で進める。駒がぶつかって、ツツカナの▲56歩が驚きの手。ただでさえ△56銀と来そうなところを、今すぐ来いと一歩と一手を渡してまで強制している。
金銀交換のあと角金交換となり、先手のツツカナは角銀交換の駒損。しかし、先手は歩が伸びた広い陣形で、後手は4筋に弱点がある。自分はこのような将棋に憧れる。でも、自分で指そうとは思わない。ツツカナだからこそ指しこなせるのだと思う。そして、こういう将棋を指すツツカナが大好きだ。
ただ、先手がすぐ勝ちそうなわけではない。解説の雰囲気はむしろ後手がやれそうな感じだった。局後の話を聞いても、やはり矢倉に関する知識経験は恐ろしいものがあるし、中終盤もツツカナと互角以上の読みをしていたと感じた。
中盤になって、これは本当に後手勝ちもあるかもと、初めて勝つビジョンが見えた。自分はずいぶん失礼なことを考えていたと思った。1回悪手を指せば即死なので期待勝率は高くない。それでも、勝つ可能性があると思えたことが嬉しかった。
しかし、ツツカナはそこからの安定した指し回しが見事だった。森下九段も、香を取る前に△56歩を利かすなど終盤になっても力を発揮していたが、ミスで形勢が悪くなっているのでツツカナがミスしない限り逆転はできない。
今回のツツカナは、▲56歩をはじめとして、自分からは決めに行かず、相手に攻めさせる、あるいはもたれて指すような順を好んでいるように見えた。ただし、相手を歩切れにさせてしまうのは今回も同じ。森下九段が相手なのに。
森下九段の負けとなり、結果は残念だった。でも、本当に充実した将棋だった。森下九段が公式戦で活躍する未来が見える。
番狂わせは起きなかったねえ。現実は冷徹。