王位戦挑戦者決定戦、渡辺・藤井(5/30)その2

すごい将棋だった。ゼエゼエ。
20時すぎの時点で、20:30には終わるだろと思っていたが、全然終わらなかった。
2012年5月30日 挑戦者決定戦 渡辺明竜王 対 藤井猛九段|第53期王位戦
△94歩、△64歩が来て、いよいよ藤井システムが確定した。
渡辺はいきなり▲55角と出て△63銀とさせる。そして▲88玉。
△95歩と端を詰めて、▲36歩にはすぐ△62玉ではなく、△43銀。
棋譜コメントを読んで)ああ、55の角をいじめる順があるのか。
先手は▲66歩と止めて▲37角と引く。どっちの角も、相手陣をにらんでいる。
先手にとって▲76歩や△95歩はマイナスだが、落ち着けば圧倒的に堅い。
34手目△71玉。ここは、対井上八段のときと同一局面。
渡辺が▲77桂と跳ねて、前例を離れた。
藤井は長考、△66歩の取り込みから△65歩と押さえ、△22飛と振り直す。
ここで、コンピュータの評価が+300くらいになり、
システムは嬉しいけどまあ普通に渡辺勝ちかなあと思った。
渡辺は対振りかなり苦手なイメージがあるので、ワンチャンあるかとも考えたが。
というより渡辺は、相居飛車が強すぎるだけか。
渡辺は▲75歩。▲64歩△72銀▲74歩△同歩▲63歩成みたいな狙いがある。
しかし、だからと言って先に△72銀か!ここで▲74歩には△63金がある。
一見、63の銀が74の地点を守ってそうなので、これを思いつくのはキチガイ
ここからお互いに陣形整備。仕掛けが難しいのだろうか。
藤井はかなり時間を使っている。後手から△35歩と突っかけた。
なんか角交換振り飛車的な展開だなあと思っていた。
藤井が白組優勝を決めた、対牧野の将棋は、5筋位取りで面白かった。
今回は混沌が足りない。これぞ藤井の四間飛車という感じじゃない。
藤井は歩損しているので、あまりゆっくりもしていられない。
と思ったら、4筋を突き捨て、6筋も取らせて角を切る!
いや飛車は走れたけど、▲48歩と止められて速い手があるの?
△33桂。棋譜コメント「時間のないなかで、なんという落ち着き。」
これ指してるの藤井だからね。ギャグにしか見えない。
落ち着いた手を指して、まるっきり間に合ってなくて惨敗が普通に予想される。
ここで渡辺は▲34歩。これには、飛車を切って両取りの角を打つことができる。
藤井は金を取り、渡辺は桂を取りながらと金を作った。
ここで△69銀とかける。さっき金を取った角も66にあり、なかなかの食い付きだ。
が、そんなことは観戦中の俺にはわからず、▲42とで渡辺勝ちだと思った。
いかにも、手勝ちを意識した渡辺がやりそうなと金寄りだったのだ。
ただ、コンピュータ将棋の評価を見て、いつもと違うな、とは感じていた。
+300が、じりじりと+600、+1000となっていくのが通常なのに、
+300前後でずっと踏みとどまっているのだ。
今日の藤井先生は粘りがある。
△41歩がよかったらしい。▲32飛には、と金を取らずに△62金引!
感想戦コメントで、渡辺は「3手連続で疑問手」。これは珍しい。
それ以上に、1分将棋の終盤で崩れない藤井。これにただならぬものを感じた。
と金を取って補充した歩で、相手の角を遮断。やばい。強すぎる。
ガジガジ。
ガジガジ。
近距離で数個並んだ升の存在を感じさせ、機械時計のような音がする。
今日初めて、これは本当に行けるかもと思った。
藤井が王位に挑戦できる、それが現実になっても不思議のない状況。
興奮して眠くて頭が痛くなった。もちろん将棋だから安心はできない。
116手目△67同銀成、ついに先手玉が丸裸に。
しかし、銀を成っているため、斜め後ろに利く銀の足がなくなり、
▲47玉と逃げる手ができてしまう。
後手は飛車を下ろしてから△56銀と捨てる。
今のところ、後手玉が堅いため、攻めが続いて後手勝勢と思われていた。
が、ここで相当怪しくなって、形勢自体はまだ後手がいいとしても、
この流れで相手が竜王、まだ可能性はあると思い直した。
こういう終盤なので、コンピュータの評価値はあてにならない。
でも、使い慣れたBonanza 6.0で雰囲気をつかむことはできる。
何がどうなっているのか不明の終盤、明らかに空気が変わったのが△35竜。
コンピュータも、棋譜コメントも、2ちゃんねるも、いつもんも。
駒をたくわえた先手に、ついに攻めのターンが回った。
二枚の角で桂を抜き、後手の「正しく指せば」の希望が消えたように感じた。
そういえば今日のいつもんは、いつものキレがなかったように感じた。
渡辺もいつもんも、藤井の持つ藤井の強さにあてられてしまったのだろうか。
普通の将棋でなら働くはずの、これが筋という嗅覚が、どうも挙動不審だ。
△36竜。これは詰めろではないという棋譜コメント。
やはりダメなのか。
藤井も渡辺も好きな棋士なので、最初は渡辺が勝っていいと思っていた。
藤井が挑戦しても羽生には勝てないだろうから、それなら渡辺がいい。
だけど、後手勝勢と聞いて、本当に藤井挑戦あるかもという状況を経験してみると、
ここで藤井が負けてしまうことがすごく寂しく感じられた。
この将棋は二転三転している。まだ、わからない。そう思い直した。
そこで▲27金。ん!?勝敗への寄与は別として、一目悪手だと思った。
渡辺も難しい終盤で時間がなくて、金を埋めておけば藤井に勝てるだろうと、
そう思って指した金だと感じた。
そして、それで実際、藤井に勝てるだろうと思った。
が、これにコンピュータといつもんが激怒。
△27銀から△47金と寄ってきて、▲39歩には△38歩で受けなし!
後手の持ち駒はスッカラカンになったが、先手は後手玉を詰ますことができない。
ついに渡辺が投了した。
藤井勝勢周辺で揺れ動く終盤の興奮があり、
そこを通過した後で文章を書いているため、それ以前の空気をよく覚えていない。