NHK杯、阿部健治郎・藤井

最近藤井先生の顔をよく見るなあ。講座をやっているし、王位戦にも出ている。
NHK杯は、今回までシード(去年B級1組2位だったため)。
来年、予選免除となるには、NHK杯でベスト4に入るとか、王位奪取とかすればいい。
阿部健・藤井の同門対決。そして解説は2人の師匠の西村。
阿部は、対局前のインタビューで「記念になるような内容にもしたいです」と言った。

対局開始

先手の阿部は、初手▲26歩。振り飛車党に対し、居飛車を明示(相振りがなくなった)。
藤井は当然△34歩。
そこで阿部、▲25歩を決めた!
振り飛車党に対してはたまに出る▲25歩。ゴキゲン封じの意味がある。
しかし、相手を考えれば、これは角交換振り飛車を警戒した手だ。
藤井は角道を止めた。一応向かい飛車の権利は得ているが…△42飛!
更に△14歩となって藤井システムが確定的となった。
実際には、△42飛のときに一番喜んでいる。ノーマル四間は、かくも貴重なもの。
よくある進行から、▲35歩と仕掛けた。
△36歩の突き出しには、△37歩成▲同桂△36歩を防いで▲26飛。
と、この瞬間△45歩。はやい。先手は角交換をせずに▲55銀と出た。
ここで、△54歩!ちょっとあるかなとは思ったけど、いやあガンガン行くなあ。
玉も囲えていない状態で自分からコビンを開けるとは。
解説で、研究で答えが出ていない部分がこうして実戦に出てくる、というようなことが
言われていて、研究の難しさを感じる。
△74歩とすれば銀ばさみの形だが、さすがにそれをやって幸せになれるイメージはない。
藤井は△63歩と打った。
ここは銀を逃げないものらしい。解説で示されたのは▲23歩と▲53角。
阿部は長考後、▲22飛成(!)と切って▲44角の王手飛車をかけた。
これで駒の損得がないというのだから恐ろしい。
今は居玉ではないけど、△54歩が突いてあるため、この角のラインがかなりきつい。
この王手を、藤井は△62金寄と受けた。普通なら△82玉としそうなところ。
この場面、先手からは▲73銀成と捨てる変化(手番を代償に形を乱す)があり、
△82玉はその変化が嫌なので△62金寄としたようだ。ひー。

先手44馬が盤面を制圧する

阿部は飛車を取ったあと、▲44馬。
自分なら香を取ってから▲44馬と引きたいと思ったが、たぶんそれは致命的に緩い。
大抵の場合、44の地点は角や馬の好位置となるが、この将棋は特にそう。
△28飛▲31飛に、いきなり△57銀。決まると思えばいくらでも踏み込んでくる。
藤井はわりと盤上でワガママなほうだと思うけど、今回は特にそれを感じた。
ただ、この辺りから藤井は時間を使うようになり、見ていて不安ではあった。
△53角。馬を消しに行った手。飛車と馬の両取りなので、馬で取るしかない。
この前に藤井は△68銀成としているが、これは▲同金と取ることになる。
▲同銀は△22角と打たれて、馬が避ければ△22金までの詰めろがかかる。
これで先手はどうするのかと思ったら、▲35角。この筋に打つのか!攻防に利かす。
これには△52金打と厚く広く受け、▲33飛成には△62角!
先手よりも速い攻めを見つけなければと焦ってしまいそうなところで受ける。
言われてみれば、これで受かるなら後手もそこまで速い攻めは必要ない。
それでも▲34桂と打っていくが、ここで△63金寄がまた素晴らしい感触の手。
本譜の▲62角成△同金寄で、桂の攻めから手順に遠ざかっている。
また、△63金寄自体は、▲75桂のような筋が気になるが、先手は桂を打ってしまった。
金が縦の3枚並び、鉄壁である。
▲42桂成に△22角と打つ。
これはさすがに竜を逃げられないので▲同竜と取ってしまうのかと思ったら▲21竜。
これも角成の王手で竜を抜くことができるが、微妙に違う形になる。なるほど。
藤井は、銀でかじりつかれても、金を寄っていなす。美濃らしい受けだ。
しかし▲35角の重ね打ちも相当確実そうな攻め。速さが自分では読めない。不安。
藤井は手抜きで△21飛と打って二枚飛車。さあどちらが速いか。
と、ここで▲85桂。先手玉を広くして、角を受けに利かせ、後手玉を狭くする。

最終盤

ここで藤井は△53金寄。角をくれと言っている。これには、先手も角を渡すしかない。
反面、後手は自ら囲いを崩したので、先手玉を詰まさなければ負けとなる。
既に考慮時間は残っていない。悪い予感しかしない。
△79飛成から△88角。取れば一間竜、逃げても桂がピッタリ…!
(エート、▲78玉と逃げたらどうすんのかな、あとで考える)
というわけで見事な一手勝ち。
いやー藤井先生がNHK杯で勝つところを見たのは何十年ぶりだろう。
残り時間が逆転して詰ましに行って、まさかそれで詰むとはなあ。
感想戦。うーん、この兄弟子感想戦はかっこいいなあ。
阿部が△57銀に▲51銀を指摘、藤井は見落としていた。
阿部が△22角を食らったのも、気をつけていたのに▲42桂成としてしまった。
序盤は潜在的に激しい変化がいくつもあり、すごい戦法だと思った。
笑いながら話しているけど、一体どんな研究をしているのか。
西村九段は、今回の将棋は「藤井システムの形にはならなかった」と思っている?
穴熊と急戦の両方に対応できるからこその藤井システムだと思うけどなー。