NHK杯、渡辺・羽生

あんまりそういう感じがしなかったけど、去年の決勝と同じカードなんだね。
後手の羽生は、いきなり△44歩。なんだこれ?!四間飛車は相当確率低いと思った。渡辺は当然の▲25歩。向かい飛車か。それもイメージないが。と思っていたら△84歩。ああ、そういう。無理矢理矢倉だ。
飛先交換しないと、先手の利がどこにあるのかわかりにくいけど、角を動かしていない(角を別の場所に動かしたとき1手得になる)。その角をさばく▲35歩に、羽生は△66角と突っ張る。▲34歩で乱されてもスンナリ歩交換はさせない。
さすがに先手がいいのだと思うが、自分が先手を持ったら相当勝ちにくいイメージ。後手にうまく待たれたら、仕掛けを探すのは大変だ。
羽生は▲24歩に△22歩と低く受ける。普通は損な手だが、羽生がやると不気味だ。後手は屈服したので、先手からすぐに攻めこむことはできない。
後手が△53角と引いたところ、渡辺は▲65歩!△65桂の両取りがあるというよりも、今まさに角が逃げたところへ歩を突いていくのがあまりにも浮かびにくい。結局△65同桂とは取れず、△同銀とした。▲26桂があるため、後手は桂を渡せない。
▲84角の桂取りに△72歩!これも酷い。一歩消費して、7筋で歩が使えなくなるし、飛車の横利きも消える。しかし、先手からどう攻めていくか、観戦している自分にはわからない。そして、それをこれから渡辺が見せてくれるというのがたまらなく嬉しい。先手がいい局面なら必ず手を作ってくれるという信頼感が渡辺にはある。
5筋を突き捨てて▲52歩。玉をおびき出す手筋だが、かえって玉が広くなってこちらの歩損だけが残るという可能性もある。△42玉に渡辺は、▲66銀と自分の囲いを崩してぶつけていった。先手も薄くなるのは怖い。ただ、後手はもっと怖い玉形なので、ここは△74銀と引いてかわす。
△51玉に▲58飛と回る。これは気持ちのいい手だ。だが、具体的な展開は見えない。先手玉にも嫌みが付いて、羽生は△27角と打った。ここで、▲54歩が素晴らしい手。これは、取れば▲55銀で調子がいいし、本譜△49角成は手順に▲55飛と走れる。そこで△52歩と屈服しても、今度は先手に▲56角の絶好打がある。
もう後手陣は持たない。一手受けてもまた次の手が飛んでくる。▲77桂が気持ちのいい手。攻めに厚みを加えながら、▲89玉の逃げ道を作っている。△37馬は本当に辛(つら)そうな手。そして羽生が投了。おおお!
ついに渡辺がNHK杯を取った。先手が勝勢という解説はあったが、藤井先生の言葉なので「実は読み抜けがあって後手もやれるんじゃないか」という不安があった。これほど不安になる解説も珍しいと思った。
終了図を見ると大差だが、途中までは微差だったのだろう。面白かったよ。決勝戦という感じではないかもしれないが、ほんとに好きな展開だった。