名人森内の迫力

竜王戦が(普通なら18時以降まで続くのに)14時に終局して、16〜18時のBS中継が困ったことになった。森内と野月(これも大概豪華すぎると思うが)が初手からの解説をしたのだが、それでも余った最後の30分に、つるの剛士が登場した。
ちょうど将棋フォーカスの収録に来ていたとのこと。BS中継に顔を出すのは予定だったのだろう。最初見たときは、投了が早かったからって一体どういう魔法を使えばつるの剛士が湧いて出るのだと思った。しかし、投了の早さ自体は予定外のはず。ここで、つるのvs.森内の「大逆転将棋」が始まった。
今回の投了図から、勝った渡辺竜王側をつるのが持ち、負けた丸山挑戦者側を森内が持つ。これはやばい。生放送だよこれ。森内は名人だよ。いち視聴者としても、投了図を真剣に考えざるを得ない。なまけ将棋ファンに投了図以下を考えさせる手段としては最強である。
最初のうちは好調だった。つるの、やはり強い。うまく縛って、と金まで作り、ここからなら俺でも勝てそうと思う局面になった。が、そこで森内は▲31角と謎の王手。うわあああああああ!!!!!!!
この角は一目無理。どう考えても無理。しかし後手の具体的な手順を示せと言われると、即答できない。具体的な手を示せと森内に言われると、言葉が出ない。自分でも必死で考えたが、森内の意図が全くわからない。こんなの、頓死筋なんて絶対にあるはずがない。△同金で何が悪いのか不明だし、たとえ逃げてもかなりの余裕がありそう。第一感は△33玉だったが、実戦ならさすがに△同金しか選べなかったと思う。
つるのは△同金とした。森内は▲72竜。これは要の金を抜かれてしまう!つるのも気づいていなかった。捨て駒で玉を露出させて両取りをかける。こんなの3級でも知ってる基本手筋で、普段の素人同士の対局でこの局面になれば、狙いを見破れると思うんだよね。しかし、名人の威圧感がそれをさせない。名人だろうが何だろうが、将棋のルール外の動きは絶対にできないのだが、それを理解することは難しい。プロ棋士の強さを知っているからこそ、プロと自分のルールが同じであることがわからなくなる。
金を抜かれたが、角をタダでもらっていて、元がド勝勢なので、まだプロ相手に勝てる局面だ。だが、そんなこととは関係なく、動揺して気分は敗勢だろう。ここで△87銀と縛れるのは本当にすごい。悔しいが(なんで悔しいの)、つるの剛士は俺よりもずっと強い。ただ、つるの剛士よりは、天気予報の森田さんのほうが上かな。森田さんもアマ三段で、大逆転将棋で羽生を相手に勝ち切っていた。
局面はかなり難しくなっているので、野月必死のフォローの下、なんとかかんとか致命傷を避けて森内玉を追い込む。後手は、攻め駒が減ってかなり不安である。加えて、生放送終了の時刻も迫ってくる。最後、森内が空気を読んで(?)上部へ逃げる。これが実は一手詰なのだが、これまた つるのはわからない。野月決死のフォローで、ようやく詰みを発見して森内が投了。
面白かった。つるのアマ三段が恥かいただけの企画だったけど(傍目には手の見えなさが酷い)。それにしても、この企画を実現させた瞬発力(あるいは事前の準備)は素晴らしい。

後手:つるの剛士
後手の持駒:銀 桂 歩四 
  9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 龍 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v金v玉 ・|二
| ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・v金 ・|三
| ・ ・ 銀v桂v銀v角v歩v歩v歩|四
| ・v歩 ・v歩 歩v歩 ・v銀 ・|五
|v歩 ・ ・ ・ 金 ・ 歩 ・ 歩|六
| ・ 歩 ・ 歩 ・ ・ ・ ・ 香|七
| ・ 玉 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| 香 ・ ・ ・ ・ 飛 ・ ・ ・|九
+---------------------------+
先手:森内名人
先手の持駒:角 金 桂 歩 

▲8五銀    △5六桂    ▲9六香    △同 香    ▲同 銀    △9五歩
▲同 銀    △9六歩    ▲7七玉    △7五金    ▲8六歩    △9七歩成
▲3一角    △同 金    ▲7二龍    △3二金    ▲7五龍    △8七銀
▲6六歩    △同 歩    ▲同 玉    △6一香    ▲6四歩    △6五歩
▲5七玉    △6六角    ▲同 龍    △同 歩    ▲5四歩    △6七歩成
▲同 玉    △7七飛    ▲5六玉    △7六飛成  ▲4五玉    △6五龍
▲4四玉    △5四龍
まで38手で後手の勝ち