名人戦第4局、森内が▲25歩を決めた

現代将棋は飛車先を突かない

矢倉では、飛車先を一つも突かずに駒組みを進めることが多い。いずれ突くのだが、後回しにできる手は後回しにするという思想だ。
かつて角換わりは、後手が千日手を狙うと先手は打開できなかった。しかし、▲25歩を保留することで▲25桂の攻めが可能になり、再び指されるようになった。
一手損角換わりは、後手が手損までして飛車先を保留するという戦法だ。

▲25歩を決めるのは損に見える

▲26歩△84歩の出だしなら、相掛かりになるのが普通(角換わりのこともある)。後手が横歩取り振り飛車をやりたいなら、▲26歩に△34歩とする。ここで、先手側が横歩取りゴキゲン中飛車を避けたいなら、▲25歩とする手がある。
この▲26歩△34歩▲25歩というのは、名人戦第4局でも出た形だが、これは損とされている。ここから△33角▲76歩△22銀と進んで角換わりになった場合、先手は最初から飛車先を2つ突いている。これは損だろう。
角換わりが嫌だと言って角交換をしなかったら、後手にだけ飛車先を交換されてしまう。これは普通の角換わりと同じ。

矢倉にできる!?

ただ、先手から角道を閉じればどうなのか、ということを自分は考えもしなかった。名人戦を見て考えてみたが、▲26歩△34歩▲25歩△33角▲76歩△22銀▲66歩△84歩▲68銀△85歩▲77銀なら飛車先は確かに受かっている(なので後手は△84歩としないだろう)。
自分で思いつかなかっただけで、矢倉になった実践例はプロでもある。ただし、先手の勝率がかなり悪い。
しかし、森内は勝った。それも、圧勝に見える。先手は早囲いをする。後手は角を上がっているので早囲いにできない。先手が早囲いで一手早い上に、後手は飛車先を突いていないので、後手からの攻めが遅すぎる。

補足

勘違いしてしまうことがあるけど、▲26歩△34歩▲76歩△44歩▲25歩は普通の手だ。この▲25歩に代えて▲48銀は、△42銀から後手飛車先不突き矢倉にする権利を与える。ただし、それで先手が悪いわけではないので、振り飛車党が相手なら▲25歩を保留することが多い。
▲26歩△34歩▲25歩は市民権を得るか。今回の名人戦を受け、プロ間で研究が進むはずなので、これからが楽しみだ。