竜王戦七番勝負第2局2日目

封じ手は▲13桂成。
封じ手の前後くらいでもうちょっとさえた攻めがあればと思いましたが」
と、局後の羽生は答えていた。
△26銀成や△34香が地味な好手で盲点だったのだろうか。
再開直後、羽生は下唇を出して、機嫌の悪い子どものようだった。
そんな中、羽生は歩切れを解消しながら馬を作り、後手が苦労しそうな局面に。
ここで後手が羽生なら何をしたのか、気になるところだが、
本譜後手の渡辺は△96歩(!)と、こんなときに端攻めを敢行。
「もうこんな展開はやだよ」とだだをこねたようにも見える。
渡辺は4枚の持ち歩を一気に掃き出し、香取りに△84桂と打つ。
今度は後手が歩切れとなり、攻めが続くのか心配な局面になったが、
ここで羽生は▲84同馬!
この手を見たときには、
「(▲85馬が有力なのはわかっているが)これでも勝ち」と思っているように見えた。
だが、実際にはずっと不本意な展開と感じていたらしいので、
▲85馬の悪い面を誰よりも深く読んでしまったということだろう。
渡辺の△25成銀が今日一番意味がわからなかった手。
ここは当然△45銀打などの堅い手を選ぶものと思っていた。
確かに、この順しか勝ちがないなら渡辺はこれを選べるだろうけど、
何だかつられて自分も薄氷を踏みに行った、という感じがしたのだ。
羽生は依然としてゆっくりした手を選ばない。▲29香。
空間を作り▲13銀と打ち込み、▲36飛と走る(玉を抜かれるので取り返せない)。
島「羽生さんらしからぬ手順」
森内「小駒ばかりで寂しいですね」
島研の2人が解説していたが、同じ島研の羽生の非勢に、
異様に暗いムードの解説となっていた(佐藤もいればよかったのに)。
それにしても渡辺の指し手が早い。
特に、△43桂などの有力な受けもある中で△22玉と早く引いたのは、
「これで十分」「勝ちました」と言っているかのようだった。
▲35歩と羽生らしい手も出てくるが、渡辺はそれでも少考で鋭く飛車を取る。
△59飛▲13金△31玉に、コンピュータの推奨手は▲23香成だが、
これは追う手で指しにくいのだろう。
羽生の指した手は▲75角!
▲64角の挟撃を見せながら97の地点を受けている、実に感触のいい手。
羽生の本領発揮というようなすごい手だと思った。
羽生はたぶん、「厳密には負けだけど勝ちやすい手」を選ばないんだと思う。
プロなら誰でもそうかもしれないけど、それをすごく高い領域でやると、
たまに強い指し手に対したとき、一見変な挙動として現れる。
だから、相手の渡辺も全く楽をさせてもらえない。
「わっかりません」とつぶやく。
しかし、時間をかけて選んだ△73銀は、さすがに読みが入っている。
最後、130手目△62銀まで一直線に進み、ここで羽生の手が止まる。
おそらく、この対局で初めて明確に非勢を意識したのだろう。
羽生は勝った将棋でも、いつも最終盤までわからなかったと答えている。
負けの将棋ならなおさら、負けとはっきりする順はもとより選ばないだろう。
19時少し前に羽生投了。持ち時間は少し残っていた。
あと、その他の感想を列挙。
髪が短かったんでNHK杯で見慣れた門倉さんとは気づかなかった。
真剣に考えてる羽生は、やっぱりかっこいい。
渡辺の指し手に、Bonanzaの素直さを見る。
羽生は渡辺を意識して本来の力を発揮していないのか、
それとも単に渡辺が成立しないマジックを一蹴するということか。
羽生は、自分より強い相手と戦ったことがなかったんじゃないか?
ただ、今年の成績だけを見ても、渡辺がそんなに強いとは思えない。
羽生を調子づかせたら、星2つの差はいくらでも引っくり返ると思う。
森内は「クリンチ」言いすぎだ(笑)。