第2回将棋電王戦第3局

序盤

後手のツツカナは、力将棋にするための△74歩。船江五段は飛先の歩を交換して、自分から角交換、手損したが自分だけ飛先交換ができた。
先手の玉と銀が立ち遅れている状態で△64銀と攻めを見せたのは、コンピュータの力が出ていると思った。そして、先手の形がよくなる直前まで自分も陣形を整えてから仕掛ける。これで仕掛けが成立していればツツカナ大成功の序盤になる。そう思っていたが…。

先手優勢

プロ的には成立していない仕掛けだったようだ。▲71角〜▲61角で完全に先手の攻めが決まっているように見える。第1局を思い出した。「つまらない将棋」だ。今のコンピュータ将棋に、「仕掛けが苦手」というイメージが付いてしまった。
とにかく先手玉に攻めが行かない。居玉だが、8筋からの攻めが遠い。歩が盤上になくて玉の上が不安だが、後手はこれを攻めるための駒(桂馬など)を持っていない。先手が本当にうまくやっているという感じだ。

後手ペース(△22金打、△55香)

△44角の両取りで香車を取れるようにしてから△22金打。この時点でツツカナの持ち駒は歩5枚のみ。普通は受けてるだけになってしまう。しかし、先手が攻めてきたところで△55香(△44角〜△99角成で取った香車)が、誰も予想していなかった好手。ここでは流れが変わっていた。
あの完全に失敗した仕掛けから、相手がプロなのにここまで難しくなる。将棋はどんだけ深いのかと思った。
ここで船江五段は時間を使い、ツツカナはどんどん評価値を上げていった。まだ終盤(手数計算で酷いことになったり)があるからコンピュータ側油断できないと思っていた。

先手優勢(△66銀)

遊んでいた銀を只の場所へ差し出す!確かに、竜は逸れたし、遊んでいた銀も使えた。しかし現実の銀損はあまりにも痛い。ツツカナが、自玉の詰みに気づいて予定変更したのだろう。
終盤の弱点が露骨に出た(こんな早い段階で出るとは思っていなかった)。船江五段は、各変化の詰みの有無を読んで指している。ツツカナが、先手が危険になる(ツツカナの評価値が上がる)順に誘導すれば、船江五段は、先手は危険だけど後手が詰むような穴を見つけてくる!
ここから、船江五段が素晴らしい指し回しで、局面は単純化した。後手は銀損。駒が酷く少ないように見える。何もすることがない。もうツツカナは勝てないと思った。何か(面白くなるようなことが)起こってくれないかなあと、わずかな希望を持って見ていた。

先手攻めあぐねる

解説の鈴木八段がうめいている。見ていて、精神をやられてるんじゃないかと心配するくらい。「相手の立場に立てば投げる(投了する)のは相当な悪手」「今までどんだけ相手を楽にしてきたか」ツツカナの粘りは自分が見てもすごいが、プロが見ると本当のすごさが見えるんじゃないだろうか。
自分はコンピュータ将棋に、今までにない構想や目のさめるような鋭い手を期待していた。でも、今日の将棋を見ると、負けない手を選び続けて結果として勝つ感じだ。相手がプロ棋士なのは初めて(!)だからなあ。文字にすれば予想の範疇とも思えるが、実感としては異世界すぎて何が何だか。
将棋は体力だ。普段から聞いているはずの、1日かけて将棋を指す過酷さが、初めてわかった気がした。人間はトイレにも行かなきゃならない。

終局

ボンクラーズの示す評価値は2000を超えた。普通だったらコンピュータ勝勢と思うところだが、今日の将棋を見てきた僕らには2000という数字すら信じることができない。人間なら一目で詰みそうと思える局面を、コンピュータは見逃しているかもしれない。ツツカナも船江五段も人間ではない。何が起こってもおかしくはない。
みんな本気でそう思っていたけど、結果は普通にツツカナの勝ちだった。