第2回将棋電王戦第4局

毎週電王戦があって、そのたびに長いエントリを書いてるけど、正直なところ毎回途方に暮れている。書きたいことを書けば長くなるのはわかっているが、長文を構成するだけの力がない。プログラミングしてるときだって、コードの行数が長くなると、きれいなコードを書くのに死ぬほど、完成するまでに寿命が尽きるほど時間がかかる。
まあこんなことを書いてるのだから、先週よりは落ち着いているわけだよ。途中からは、入玉して点数の足りないプロ側が負けるか、引き分けるか、コンピュータが酷いことしてプロ側が勝つか、どれかになるという予想がつく展開だったから。3通りだけど、通常の将棋で起こる事象と言ったら、可能性はいくらでもあるから、それと比べれば平坦な世界だ。
しかし、電王戦が始まってから心配している「つまらない将棋」ではなかった。コンピュータ側が圧倒的に有利な条件での入玉だが、今のコンピュータがものすごく苦手な入玉である。しかも、相手はコンピュータ将棋とかアマ強豪とかではなく、プロ棋士!この局面をプロ棋士が本気で戦ってくれるなんて、地球人類にとって初めてのことだ。
みんながプロ棋士側を応援することが、最近になってやっと納得できてきた。たぶん、自分がコンピュータ将棋を応援しているのと同じようなメカニズムなんだろう。ずーっと開発者をブログやTwitterで見てきたからなあ。そうは言っても、やはり想像できない心情はある。まあそれは当たり前だ。ただ、プロ棋士の思いを全く想像させてもらえないのは悔しいんだよ。塚田九段の涙のわけが、わからない。自分は将棋に命を懸けた経験がないし、そうありたいとも思っていない。だから、わからなくて当然だ。それでも全く想像できないのは悔しい。
今回の将棋を、あまりよく思っていない人もいる。これは、ギリギリちょっとはわかる程度。想像とか実感とはは全くできない。想像できないのは仕方ないけど、そういう人たちも一人ひとり異なる色々な思いを持っていることを忘れてはならない。
自分は、両者が全力で戦ってこれなら、文句の付けようがないと思っている。ただ、勝負の面白さを損なった原因があるとすれば、ルールに立会人の裁定という不確定要素があったこと。256手までに勝ち切ればいいんだから大きな問題にはならないと思っていたが、やはり入玉のルールは少しの穴もなく決めておいたほうがよかった。今回の場合、後手は何百手も粘れば勝つチャンスもあったと思う(塚田九段にその気はなかったようだが)。「ルールの範囲内なら何をしてもいい」という環境が、真の面白さを生むと信じている。先手は入玉対策をしたくてもこれが精一杯だったし、後手は勝つとしたら点数を稼ぐしかなかったし。ルール内で最善を尽くすのが悪いわけがない。
他人の気持ちを勝手に想像したりして、相当気持ち悪いと自分でもわかっているけど、実感はないのだよね。
正直自分も、コンピュータ将棋を馬鹿にするプロ棋士に「結果」というパンチを入れたい、みたいな気持ちはあったよ。でもそれはプロ棋士の見解や気持ちが見えない不快感からであって、本気でそう思ってるなら絶対何かたくさん思い違いをしているわけ。

いろいろ

今日も普通にボンクラーズ(Puella αの前バージョン)の評価値が表示されていた。
使われているGUIが、今回は将棋所じゃなくてK-Shogiっぽかった。
途中、初手から解説したとき、木村八段が▲13桂成(正しくは▲13桂不成)としていて、プロっぽい記憶力だと思った。
暴走気味の木村八段だったが、あの将棋で話をつなげる技術はすごかった。
観戦にあたってルールはちゃんと読んでいたつもりだったが、24点法について確認しておかなかったのは自分の反省点。
夕食をとって戻ってきたら評価値が31でびっくりしたが、24点法の点数だった。
会見で、塚田九段が「点数勝負しかなかったので幸いした」と。

初手から

後手の塚田九段が角道を止めた。横歩取りを避けてじっくり行く作戦だったようだ。そしてPuella αがランダム定跡の▲48銀。これがコンピュータらしいよね。人間なら、振り飛車党以外には▲25歩と決めるところだ。矢倉が好きなら▲48銀でもいいけど。
普通に組み合って、今回もコンピュータ側から過激に桂を捨てて仕掛けていく。今回は無理だったかどうかわからないけど。プロの実戦でも類形があったらしい。第4局にして初めて普通の将棋になった。コンピュータが受け潰す展開も見てみたいと思った。
プロ棋士を応援している人は、コンピュータは攻めをつなぐのが上手いからと心配し、コンピュータを応援している俺は、プロ棋士はきっちり切らすからと心配していた。
プロ棋士は後手を持ちたいが、しかし意外と難しいという局面が続く。桂香を渡して取った銀を▲83銀と打って、それを相手の銀と交換してしまうのだから、普通はダメなはずなんだけど、それで難しい(互角に近い)というのだから将棋は侮れない。コンピュータ将棋とプロ棋士がぶつかることでこういう局面が現れるのだとしたら、人類にとって電王戦を開催した意味があるということだ。
ここで、塚田九段は入玉を目指す作戦にスイッチ。当然ながら、ボンクラーズの評価値はここからぐんぐん上がっていく。プロが本気で入玉を目指したら、コンピュータは負けると思った。だが、入玉するのは相当無理な局面だったので、後手はかなりの駒損をして、点数が明確に足りない局面にまでなった。
最初は「先手がコンピュータなら必敗」に見えていたけど、「プロ同士なら先手必勝」の局面になって、勝敗はともかく安心した。これで、たとえコンピュータ側が負けても意味のある棋譜が生まれることがほぼ確定した。ここからPuella αがどこまで踏ん張れるか、塚田九段がプロの力を見せるか、それが楽しみな局面だ。
Puella αは入玉対策を入れてある。なので、タイミングは遅いが玉がずんずん上がって行った。しかし玉が上がるだけ。他の駒の動きが全くダメだ。大駒も1枚失って、後手にも楽しみができた。まあ入玉の腕前は俺と同じくらいですかね(わからんぞ)。こう、駒が協力し合って動くようにするのは本当に大変なんだよなあ。
だんだん、後手の模様がよくなってくる。Puella αも最後のほうでは歩を守るような手を見せたが、歩を取られ引き分けにされてしまった。相手がプロ棋士だしねえ。仕方のないところ。負けなかっただけよかったよ。負けないだけの対策ができていたのがすごいよ。
持将棋となり、規定により指し直しせずに引き分け。終わり。